『よく』見えること
あかりひとつで 景色が変わる
あかりふたつで 気持ちが変わる
みっつもあれば
世界が変わるかもしれません
あかりひとつで 景色が変わる
あかりふたつで 気持ちが変わる
みっつもあれば
世界が変わるかもしれません
似ているようで
違う「よく」
題名にある「よく」には、二つの意味があります。
一つ目の「よく」は、はっきりとそれが何か確認出来るという意味での「よく」。そして、二つ目の「よく」は、素敵にとかいい感じに見えるという意味での「よく」です。
漢字で書いたって同じなんですが、この二つの違いは分かると思います。これらは照明を考える際にとても大切かつ基本的なことなのですが、それこそコーディネーターさんやプランナーさんにでも依頼しない限り丁寧な説明がされることはないでしょう。
日本では、かねてから一つ目の「よく」を重視して住宅の照明計画をしてきました。簡単に言えば、読書する時にちゃんと文字が読める明るさだとか、お裁縫する時に危なくない明るさだとか。
これってやっぱり結構重要で、落ち着いた雰囲気にこだわりすぎて仄暗い空間にずっといると、知らないうちに思わぬ健康被害が出てくる可能性があるんです。
というのも、みなさん家にいて全く何もしていない状態ってありますか?どうでしょう。もちろん、座ってたり寝転んでたりはいいですよ。その状態でじっと壁や床を見つめてることなんて、、あぁ、たまにありますね。いや、たまにですよね。
基本的に何かしていると思います。例えば、読書、勉強、テレビ、家事、ゲーム、パソコン。そして何より、一番多いのがスマホでしょう。そういう「作業」と呼ばれるものについては、それぞれにこれくらいの明るさはあった方がいいですよという”推奨”照度があります。なので、専門家に依頼するとその数値をもとに照明を選定してくれるのです。
ここでは、一般家庭の想定なので”推奨”という言い方をしていますが、オフィスなど労働を伴う環境になると”しなければならない”法令として定められています。仕事場の実作業を伴うスペースまでおしゃれっぽくしてしまうと罰せられる可能性があるので気をつけましょう。それくらい、明るさが心や身体に及ぼす影響が大きいということ。
たとえば日照時間の短い北欧では、それが原因で「うつ」を発症してしまいやすく、ライトセラピーといって普段の照明よりもさらに明るい人工光を浴びることで身体のリズムを整える治療法が一般的にあります。
一つ目の「よく」を軽んじると、思ってもみない健康被害に見舞われてしまうこともあるので注意しましょうね。
さて、もう一つの「よく」は、素敵に見えるという意味の「よく」。雰囲気がいいだとか、落ち着く空間だとか。お花が綺麗に見える、お料理がおいしく見える。なんていったこともそうです。
みなさんに馴染みのあるもので言うと、お店の照明計画。スーパーの鮮魚や野菜売り場は白い光で構成されていると思います。それはお刺身や野菜は白い光の方が美味しく魅力的に見えるため。かたや、お肉売り場はオレンジの光ですよね。
つまり、数値もいいけど空間や物体が好ましく見えることをもっと意識して照明を使おうよという考え方で、近年住宅の照明計画でも意識されはじめました。
この二つを噛み砕いていうなら、身体的(能力的)なアプローチか心理的なアプローチと言えるでしょう。
照明のことを
ちょっと
考えてみる
前者は数値を用いるため分かりやすく情報共有もできるのですが、とりあえず推奨値以上で明るめにしておこうという提案になることが多く、蓋を開ければ「明るすぎる日本」がたくさん出来上がっていました。
かたや後者はというと、心地よさややすらぎといった数値では表せない感覚的な部分を大切にしようというもの。しかし、個人の感覚に依存するところが大きく情報を共有しにくいため、あかりの知識は使用者に丸投げするかたちに。
結果として、市場には感覚的な表現や概要程度の提案が目立つようになり、「北欧」「ヨーロッパ」という言葉に頼った意匠(デザイン)先行の製品がたくさん増えました。
これにより「北欧と日本①」で書かせていただいたような状況が頻発し、照明器具選びはなんだか難しいものという印象まで付いてしまったように思われます。
さて、ここまでお読みいただいてお気づきの方もおられると思いますが、実はどちらの「よく」もその半分くらいは要素を互いに共有しています。というのも、室内のものや手元のものが「よく」見えていないと、やっぱり不快で「よく」は見えないですよね。陰翳礼讃よろしく、闇の中に「虹色のかゞやきを持った、細かい灰に似た微粒子云々…」なんてものの見方をしない限り、そこにあるのはごく普通の日常。
しっかりものが見えていることが心地よさに直結する要素のひとつには間違いありません。つまり、「よく」を知った上で「よく」を実現させることが最も理想的な照明の使い方と言えるのです。
ひと昔前ならダイニングもリビングも団らん・憩いの場としての環境作りでよかったのですが、今はたくさんの用途が求められる空間になりました。
リビング学習なんて言葉が流行って久しい今日ですが、2019年に発生したコロナを機に、家が仕事場や友人たちとの会食の場となった方もおられるでしょう。確かに今までのゆっくりくつろぐためだけの場所という捉え方は、いささか贅沢な使い方だったようにも思えます。
今、住宅はさまざまな用途に活用できることや、いろんなシーンを体験できることが価値になってきています。そして、照明器具はそのための役割を担っている重要なインテリアエレメント。素敵な暮らし・愉快な日々のために今改めて照明に目を留めてみませんか?