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  2. 直接型のペンダントライトについて

<直接照明について>

真下を”直接”照らすという事で、「直接照明」という非常にストレートな分類名。英語でいうと「direct (ダイレクト)」。その使用感はペンダントライトというよりも、吊り下げられたスポットライトと表現する方が分かりやすいと思います。

さて、この直下を照らすペンダントライト。「照明器具のイラストを描いてください」とお願いすると、大抵の場合みなさんこのタイプのイラストを描かれます。それくらいシンボリックな形。

かつては工場や倉庫、オフィスなど人が作業する箇所に天井から吊るされ、ピンポイントで明るく照らすために重宝されました。そんなエピソードがあってか、中にはファクトリーランプなどと呼ばれる製品もあります。

広く普及してからは、カフェやショップなど商業施設でその魅力を最大限に活かされていましたが、日本では2012年あたりのインダストリアルデザインブームに乗って、アメリカ風、北欧風などより多くの製品がデザインされ市場に溢れました。

じつはその時に多く寄せられた購入者の声があります。それが「とにかく暗くて不気味な部屋になってしまった」という事。なぜそのような事が起こったのかを説明する前に、このタイプの照明を選ぶ時のたった一つの注意点を先にお伝えいたします。

それはずばり『単体で使わないこと』です。簡単そうなことですが、これが日本の住環境にはあまり馴染みがなく、吊り高さの説明しかなされないまま購入に至った消費者から後悔の声が多く上がる原因となりました。

日本の住宅では、一部屋に一つの照明を配置するという使い方が主流だったため、部屋の照明を選ぶ時はそれ”一つでまかないたい”という感覚があります(「つるすということ」参照)。しかし、この直接型の照明は先述のとおりスポットライト的であり、狙った場所にあかりを集める照明器具。本来、単体での使用はあまり想定になく、それのみで吊るすと下のような状況になってしまいます。では、高さごとに見ていきましょう。

<高さごとに見てみる>

①机上60cm
テーブル面は明るいが、部屋の上半分がかなり暗くなり、推奨照度を大きく下回る。明暗比も著しく、目に負担がかかる。空間としてもかなり不気味な印象に。
②机上90cm
動作次第では、座っていても少し眩しい時もある。①と同じく生活動作域に明暗の境界がはっきり出るため、不快な空間に。テーブル面の明るさはそれなりに採りやすい。
③机上120cm
明暗の境界線が高い位置になるので、不気味な印象は若干マシに。しかし、光源自体が上に上がるため、テーブル面が暗くなる。そのため、明るい電球に変更される方も。

※それぞれ電球が剥き出し(下面にプレートなどがない)場合を想定しています。

さて、この直接型の照明器具を単体でダイニング用に買われた方は①②を経て、最終的に③のように高い位置まで上げるというパターンになる事が多いようです。そして、そのまま明るさに慣れるか、暗さを解消するために強い電球に変えるという方法を取られる。これは“照明を一つしか使わない”前提で買ってしまったのであれば仕方ないと思います。

①②のような状況は、生活環境における照明の使い方としては破綻しているので、プランニングする側としてももちろん回避します。ただ、美術館などではわざとメリハリをつけるため、演出としてこのような明暗の対比を使います。という事で、この状態でダイニングに座ってみると、まるで自分が作品になったような、舞台で悲壮なシーンを演じているような、なんともシュールな絵になってしまいます。このような明暗比の著しい環境で生活すると、知らない間にストレスがかかり眼精疲労の原因にもなるので絶対に避けましょう。

そして、もうひとつの残念なこと。器具自体も暗闇側に入っているので、気に入って購入した色味や素材感などがあまり楽しめません。白い製品が黒に見えることもあるほど。日中は自然光で認識できますが、どうせなら照明が機能している夜こそ、その姿を堪能したいですよね。

左:直接照明のみだと明暗差がかなり強い。影が非常に濃く落ち、食器やノートなど卓上にあるものが反射する光もやや眩しい。
右:他の光源も併用。各所に光の“たまり”を作れるので、グラデーションがつき明暗差も柔らかくなる。

<どのような使い方が良いか>

この形状の照明器具が商業施設でよく使われるのは、他にも多数の光源が準備できるから。それらとの併用があって初めて、魅力が最大に活かせるタイプの照明器具なのです。外で見かけてかわいいな、おしゃれだなと思った時、またはイメージ写真で魅力的な提案がなされている時、それは別の照明によって照らされているか、全体の明るさを調整して演出、もしくは加工されたものである事がほとんど。実際に家で使用するシーンとは違う場合が多いため、いざ取り付けてみるとご自身の思い描いていた空間にならず、後悔の声が上がったというのが冒頭の真相です。

ちなみにこのタイプのシェードには上部に穴が数箇所空いているものがあります。これは白熱電球の使用を想定していた時代に熱を逃すために作られた放熱孔と呼ばれるもの。明かりを採るには不十分なことが多いので光源の方向としては考慮しません。

さて、では一般住宅の場合、どのような状況で直接型のペンダントライトを使うのが良いのでしょうか。以下をご覧下さい。

④ダウンライトがある場合
ダウンライトが既に天井に配置されていると、お部屋の基本の明るさを確保しつつ、明暗さを整えてくれます。また、天井側も適量で明るいため、本体自体の姿も認識でき、インテリアとしてもとても美しくまとまります。

⑤ダウンライトがない場合
ブラケットライトやフロアライトなど他の器具も併せて揃えることをお勧めします。これらを使い、必要な部分にあかりを足しましょう。ここでもそれぞれのあかりが出る方向に注意が必要です。

⑥スポットライトを使う(ライティングレール)
既にライティングレールが取り付いている場合はそこにスポットライトをいくつかつけましょう。方向も変えられるので壁に当てる演出もできます。見た目が気にならないのであれば、後付けのライティングレールでも可能です。

⑦多灯吊りにする(ライティングレールなど)
小さいものなら2、3台を高さ違いで付けてみましょう。1台の時よりも暗い印象は軽減されますが、やはり他にも光源がある方が良いでしょう。天井電源の耐荷重に注意して器具を選びましょう。

④の状況は住宅にすでに設置されている必要があるので、もし新築などで直接型のペンダントを使いたいと決まっているのであれば、設計者に位置や個数の相談をすることをおすすめします。⑤のようにダウンライトがない一般のご家庭で直接型のペンダントを検討なさる場合は、別の照明を一緒に使うことで非常に美しく快適な空間に仕上がります。⑥⑦に関しては既に住宅にレールが付いていればさまざまな演出が可能です。後付けのライティングレールは美観が損なわれるものの、それこそ慣れてしまえば気にならないでしょう。総重量にだけご注意ください。

<まとめ>

じつは、吊り高さの推奨というのは器具や状況によって全く違ってきます。ネットで調べて出てくる吊り高さには60〜90cmなどと幅が持たせてあります。ショップなど多くの商品を展開している場合や、専門家がいない場合はざっくりとこの説明で済ませます(「つるすということ②」参照)。器具メーカーであれば、その製品の照度データを持っているので、状況を踏まえて推奨の高さを教えてくれるでしょう。

一般消費者は前者で買う場合が圧倒的に多いため、事前に知れる情報が不足しがち。「全般拡散照明」や「半直接照明」ならば、それ自体の高さを上下するだけで、ある程度は空間の明るさに対応できるのですが、「直接照明」だけは単体ではどうしても上下のみで解消できない問題があるという事がお分かりいただけると思います。

このように直接照明は取り付ける状況を加味し、単体で買っても機能するのか、特性を十分に活かせるのかをよく検討した上で選ぶようにしましょう。

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